「ネット右翼になった父」を読んだ

嫌韓・嫌中にあたるような用語で露骨な批判をする父に衝撃を受けた著者。
ネタバレを含むので読む予定がある人はここで引き返しましょう。

余談ですが、鈴木大介さんの本で『脳が壊れた』はおすすめ。
作者が脳梗塞からの回復の過程を語る貴重なドキュメント本。

どんな本か

鈴木大介さんがネット右翼の用語を話す父のパソコンを見て、家族や知人に話を聞きや数年にわたって調査を行った。
「わからないことはそのままにしない」「多くの人が言う当たり前を鵜吞みにしない」家訓で、
高潔さと愉快さを兼ね備えた父のヘイトワードの発言に衝撃を受けた著者。

ハングルの合理性に感心し、中国に語学留学をした父がいったい何故?
父の死後にネット右翼コンテンツに傾倒した要因を調べることにする。

遺品のノートパソコンのデスクトップにある嫌韓嫌中のフォルダ。
ネット右翼コンテンツに著者は嫌悪感を抱く。

コミュニケーション不足

愛国心を語る知人などと付き合いを続けるうちに価値観の共有は難しいと感じる著者。
いわゆるネット右翼と表現した人々を同じワードを発言する父と議論することなく距離を取った。

父親についての調査結果

  • 距離感の違い
    今と違って戦後の「三国人」は日常的な言葉で、下に見下しての差別ではなく、怖い、敵わないなどの自虐的なニュアンス。
    中国、韓国と商売で嫌な思いをしたことが多くあった。
  • 社会的弱者にリアルで会ったことがない
    シングルマザーや生活保護受給者に対する自己責任論や、社会的弱者に無理解な発言を行う。
    だが当事者の子供の前でうっかりシングルマザーバッシングを行い母が激怒。
  • 「共犯」ではなかった父の友人たち
    父の世代の友人達との日常会話でヘイトスラングが先鋭化した可能性を考えて、父の親友に話を聞く。
    その結果は「ひとことも、聞いたことがなかったね」

詳細な過程は省くが、結論は保守でもネット右翼でもなく好奇心が多く多様性がある父。
実際に姉の前でスラングを使ったことはなく、著者に対する話題の一つとして使った可能性がある。
ヘイトスラングだけでネット右翼扱いした著者のアレルギーによる決めつけが、父はネット右翼であるという思い込みに繋る。

姉は父と衝突して等身大の父の姿を見ている。
思い込みとコミュニケーション不足が悲しいすれ違いとなった。
全てが推測によって出した結論ですが、著者が深く考えて納得したなら一つの区切りになるでしょう。

価値観と距離感の違い

この本を読んで感じたのは、言葉との距離感と価値観の違い。
当事者しかわからない意味と認識のズレがある。
私も体験している出来事を思い出した。

距離感の違い

・1990年代に、韓国の出張は戦争の記憶があるので発言に注意しろと強い警告を受けた。
・中国に出張に行った友人は、中国は有効的で過ごしやすかったと言った。
 (昔は友好的だった時代もあった。)
・日本で出会った中国や韓国の人間には、特に嫌な思いを受けたことはない。

価値観の違い

・オリンピックでの森元首相の女性発言が大問題となったことを本に書かれているが、
 当時のTVで見ると何が悪いかわかっていないことが印象的だった。
 議論に入る前の軽い発言だが、昔であれば問題になっていなかった事がわかる。
・従兄弟の父で大学で臨時の講義を行っている陽気なおじさんがいる。
 大学で赤い人(アウト!)や黒い人(アウト!)に教えていると嬉しそうに話す姿に目まいがした。
 さまざまの人々と講義をしてると表現したかったのでしょうが、完全にアウトな発言。

 いつも笑顔で穏やかな印象の人の口から、そんな発言を聞いたのは衝撃だった。

今の時代がOKでも、未来はNG発言になっている事もあるだろう。
時代が変わった時に、不用意な発言で人を傷つけないようにしたい。

問題は時代が変わる事で、何が問題発言なのかわかっていない場合があること。
現役を退くと悪意はなくても何か問題発言を言いそうです。

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